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貧民夜想會 旧館


2009年09月13日 [長年日記]

_ [book]彼の人生を追体験する〜貼雑年譜

図書館で借りた本

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わたしは特に乱歩のファンというわけでもなく、作品も定番のものしか読んだことがない。そんなわたしでも、この貼雑年譜の存在を知ったとき、ぜひ読んでみたいと思い、手に取った

中島河太郎による前書きに

「貼雑年譜」は江戸川乱歩の自伝的資料を集成したもので、門外不出の労作であった。

とあり、続く乱歩自身の序 (昭和十六年四月初旬に書かれたもの) には

時局のため文筆生活が殆んど不可能となつたので暫く休養する事にした。その徒然にふとこの貼雑帖をへて置くことを思ひ立つた。

とある。この本はその貼雑帖のごく一部分のレプリカ

内容は自分史に始まり、転居の記録・乱歩が住んだ家の間取り図・名刺・新聞広告・手紙・絵・ラジオ出演した際の原稿などなど。ものすごいボリューム。大型ビジュアル本なのに、読むのに非常に時間がかかった。時間はかかったけど、かなり面白かった

まず思ったのが、実によく過去の事を記憶しているな、資料もよくこれだけ保存していたものだ、ということ。家の間取り図などは家族に聞いたのかもしれないけど、転居の記録など、何年何月から何年何月まで某区某町某番地、という具合。三重・名古屋・東京・守口などの手書きの地図上に、場所と住んだ順番が記録されている

特に目を引くのが新聞に載った作品の広告と、乱歩自身について書かれた記事類。広告は実に過激で、時におどろおどろしく、ついつい引き込まれてしまう

そしてこれを読むことで、大正から昭和初期のミステリの歴史そのものも見えてくる。わたしはミステリファンではないので名前の出てくる作家で知っている人は殆どいないけれど、知識がある人が読むとかなり興味深いのではないだろうか

…………………………

貼雑年譜の存在を知ったのは、この日記でも何度か出てきている「文人悪食」だった

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この本は内容そのものが非常に面白いだけでなく、この貼雑年譜のように、面白い本との出会いも作ってくれた。文庫としては多少高いが、でも読んで本当によかった